【P.-Miauor-Q 85/3.2】テクノロジー #2 機構

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写真用レンズに必須の機構

一般的な写真用レンズのほとんどは、以下のような機構を持ちます。

  • カメラ側のマウントに適合するレンズ側マウントを持つ
  • ヘリコイドによるピント調節機構を有する
  • 段階的な光束調整を可能とする絞り機構を持つ

設計時点で、市販品・個人製作品含めていくつかの3Dプリント製鏡筒のレンズを確認していました。
しかしながら、少なくとも個人製作品においては上記すべてを満たすものは無いと言っても過言ではなく、せっかくならば前例の無いことにチャレンジしたいとの思いもあり、製作目標はこれら全てを満たしたものとしました。
せっかく部品を一から作るのであれば「組み立てる楽しみ」も味わってほしいと思い、DIYの組み立てキット品としました。

レンズ側マウントについて

レンズのマウントには大きく分けて「スクリュー式」と「バヨネット式」があります。
レンズを作るうえで特にレンズ-ボディ間での連動等は備えないため、互換性はマウント形状のみであり、機能はレンズ単体で独立します。
これだけならば、より適合するカメラ・アダプターが豊富で、形状の設計もしやすいスクリュー式の方がいいと思われるかもしれませんが、一眼レフカメラのマウントがスクリュー式からバヨネット式へと移り変わっていったようにバヨネット式には多くのメリットがあります。
バヨネット式のメリットは、

  • 取り付ける際の回転角が小さく、レンズの交換が容易
  • 取り付け位置に対する誤差が生じにくく、レンズの指標を合わせやすい
  • レンズのロックが確実に行われるため、操作中に脱落が生じにくい

といったものがあり、レンズ‐ボディ間の連動を設けなくてもこれらのメリットが利いてきます。
また、3Dプリントによる製作の場合、複雑な形状は作りやすいものの精度面で切削に劣るため、細かい凹凸や突起形状の再現が困難なことが欠点として挙げられます。
スクリュー式の場合ねじ部分に誤差が生じやすく、回転角が大きいため取り付けの困難さが予想できました。
また、後ほど述べますがヘリコイドや絞り環等の各種機構と組み合わせた時にも摩擦による操作性の悪化は懸念事項であったため、確実なレンズの固定が必要であると考えました。
このため、レンズ側マウントはバヨネット式とし、私自身のメイン機材がペンタックスのレフ機であることからKマウントとしました。
現在はFマウント部品を追加し、ニコンFマウントでもお楽しみいただけます。

マウントを決定することでフランジバックも決定され、すなわちフランジバック長は45.5mmとなります。
光学系の設計から決定される無限遠時のバックフォーカスとすり合わせ、フランジバック長に適合する位置にマウント面が決まり、ようやく鏡筒の設計が可能となります。
もし光学系のバックフォーカスがフランジバックよりも短い場合には、光学系を再設計しなければいけません。
正確にはフランジバックよりもバックフォーカスが短くてもミラーとの干渉さえなければ問題は無いので、ある程度のマージンはあるのですが、機種ごとにミラーの大きさが異なる等もあるため、フランジバックよりも長い数値とすることをオススメします。

#1:光学系で述べたように、今回は中望遠のダブルガウス構成のためバックフォーカスは十分に長くとることができていました。
ちなみに、元より複雑な光学系の設計は目指していなかったこと、また(市販のレンズとは比べ物にならないとしても)ある程度の解像感を確保しておきたかったことから、設計の困難さが予想される広角および短フランジバックのレンズは検討段階で除外しています。

近年、短フランジバックマウントであるミラーレス一眼カメラ専用マウントが主流となっており、レフ機用のマウントは少数派と言えます。
しかしながら、もしこの記事を閲覧し、自作レンズ設計に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、レフ機用としてバックフォーカス長に余裕を持った設計としてはいかがでしょうか。
というのも、レフ機用の設計としておくことで短フランジバック系マウントにもマウントアダプターによって流用が可能であるため、より多くのユーザーに試していただくことができ、魅力的ではないかと考えられるからです。
もちろん、3D CADでの設計変更は容易なため、ミラーレス用のマウント部品を追加で設計し、組み合わせを変えることで多マウントへ対応することも可能です。
ちなみに、これは私個人の嗜好の問題ではありますが、実際に自分で設計した光学系を通してレフ機のOVFで像を確認したい、というのが今回一番のモチベーション維持に繋がっています。

ピント調節機構について

写真用レンズは、撮像素子面に像を形成する必要があるため、レンズ全体では一つの凸レンズであると言えます。
凸レンズを通った光は、ある一点で焦点を結び、レンズ主点からこの焦点までの距離を焦点距離と言います。
被写体の位置は無限遠よりも近くにあるため、レンズによって像がボケずに形成される位置は焦点距離よりもカメラ側になります。
つまり、被写体像の位置を撮像素子の位置と等しくする操作がピント調節であり、このための基本的な操作は「レンズを繰り出す」こととなることが分かります。

ピント調節機構として、多くのレンズでは多条ねじを用いたヘリコイドを備えています。
今回は「世の中に出す」ことが目的であったため、最初はもっとも単純な機構として、通常のメートルねじを流用して設計時間を短縮し、試作を行いました。
しかしながら、試作したプロトタイプでテスト撮影してみると、メートルねじそのままではピント環の回転角が大きく、また(試作のため一般用3Dプリンタで自家出力したとはいえ)回転動作もスムーズとは言えず、思っていた以上に使いにくいことが分かりました。
実際に通常のメートルねじを用いたヘリコイドを備えた市販レンズ(組み込み用のボードレンズ等)もありますが、これらのほとんどはマウントとしての固定と共用で、ピント位置はあらかじめ固定して使用するため、一般的な撮影には向かないことをあらためて実感した次第です。
撮影でのレスポンスの悪さはストレスと直結するため、通常のメートルねじを流用する案は取りやめることとしました。
最終的には多条ねじによるヘリコイドを新規に設計し、キーによって光学系保持部を直進させて繰り出しを行う直進ヘリコイドとしました。
また、ヘリコイドの操作性を考慮して、クラシカルなローレット形状のデザインとしています。

さて、繰り出し量を大きくすると当然ながらより近くの被写体にピントを合わせることができます(=最短撮影距離)が、繰り出したときのレンズの性能が無限遠での性能と同じとは限らず、通常、無限遠を基準に設計した場合は性能が徐々に低下していきます。
今回の設計ではヘリコイドによって光学系全体が繰り出される全群繰り出し方式を採用しましたが、これは繰り出すレンズの質量が大きいことからオートフォーカス化には不利な反面、繰り出した時の性能は安定することが知られており、マニュアルフォーカスのレンズでは広く使われている方式です。
(オートフォーカスレンズの場合、モーターに掛かる負荷を減らすためフォーカス群をレンズの一部のみとする方式がよく用いられます)
全群繰り出し方式のマニュアルフォーカスレンズを見ると、だいたいのレンズは焦点距離の10倍くらいの距離を最短撮影距離としていることが多くなっていることに気付くかもしれません。
実際に繰り出し時の光線追跡をしてみると、さすがに焦点距離の10倍程度ではあまり変化はありませんが、20倍、さらに30倍と繰り出し量を多くしたときに画質低下が大きくなることが分かると思います。
慣例的に10倍としているのは、繰り出し量を大きくしたときのヘリコイドの強度や、あるいは別途接写用のアクセサリを取り付けた場合のマージンを考慮してのことでしょう。
繰り出した状態で鏡筒にガタがないような設計とする必要がありますが、これには鏡筒の長さや多条ねじを形成する長さのバランスが重要となります。
今回の設計においてもひとまず慣例通りにすることとして、焦点距離が85mmであることから最短撮影距離は10倍の0.85m程度として設計を進め、最終的にはヘリコイドのリミッターを搭載した状態では、繰り出し量は8mm、最短撮影距離は1.0mとなりました。

絞り機構について

#1:光学系にて少し触れましたが、収差を少しでも減らすためダブルガウス構成の対称面にアイリス(虹彩絞り)を置く構成としました。
使用するアイリスは本来は顕微鏡用のもので、以前に110-Qアダプター(リンク先:DMM.makeページ)を製作した時に使用したもののサイズ違いのものです。
110-Qアダプターの時はアイリスの操作レバーにキャップを付けてほぼ直接絞り操作を行うようにしましたが、今回は同じような構成とした場合にヘリコイド位置に絞り環を配置するのは好ましくないため、一般的な写真用レンズと同じくマウント直近に絞り環を配置することにしました。
このため、絞り環から光学系保持部品まで回転を連動させる機構を用意し、アイリスのレバーを操作する構成となっています。
アイリスの光軸方向の位置はヘリコイド操作に応じて変化するため、連動機構も光軸方向の長さの変化に対応するような形状としました。
ちなみに、前述したようにヘリコイドは光学系が回転しない直進ヘリコイドとしましたが、もし光学系が回転するような構成としてしまうとアイリス自体も回転してしまうことから、このような配置は困難だったと言えます。
組み込んだアイリス自体は無段階ですが、これだとOVFでの撮影では分かりにくいため、絞り環にクリックストップ機構を設けて現在の開放からの絞り段数を感覚的に分かるようにしています。

レンズ用アクセサリーについて

写真用レンズと言えば、豊富なアクセサリー群も忘れてはいけない存在です。
レンズ前面には各種フィルターの取り付けを可能とするためのねじを配置しました。
フィルターねじは一般的なスプリング式のレンズキャップの固定にも使われるため、精度的に問題なければぜひ付けておきたいものだと思います。
そして外枠には専用フードを取り付けるためのバヨネットを配置。
なるべく遮光性能を確保し、クラシカルな外観と合わせるため、窄めた形状の角型フードとしました。
フードのデザインにローレットとの一体感を持たせることで、フードを取り付けた時が完成形となるようなデザインとなりました。

更新履歴

2020/02/25: Fマウント部品について追記

【P.-Miauor-Q 85/3.2】テクノロジー #1 光学系

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レンズ構成


「最初のダブルガウス」として知られる、4枚からなるレンズ構成となっています。
「ガウス構成」とは、凸メニスカスと凹メニスカスを離して配置したダブレット(2枚構成)のことで、これを2組用いる構成のため「ダブルガウス」と名が付いています。
これは天文学者アルヴァン・クラーク(Alvan G. Clark)により1888年に特許出願(US Patent 399,499)されたもので、ガウス構成のレンズを2組、前後で完全対称となるように配置したものです。
現在では収差を抑えて大口径化され、「変形ダブルガウス」として数多くのレンズに採用されています。
標準域の大口径単焦点レンズの多くは「ダブルガウス」が元になっていると言っても過言ではありません。


話を本レンズに戻しますと、初めからこの構成を目指したわけではなく、正確には「この形に落ち着いた」とでも言うべきでしょう。
誤解なきように付け加えるならば、本来レンズに生じる収差をなるべく抑えるために4枚の対称構成を取るのがダブルガウス構成です。
一方、本レンズでは収差の抑制は不完全なものとなっており、その結果として強烈なソフト効果が生まれています。

収差と特徴

当初「初めてのレンズ設計ならトリプレットだろう」と考え、

  • 35mmフルサイズのイメージサークル
  • 中望遠(焦点距離70mm~150mm)くらい
  • F2.8~F4くらい

を目指して設計していました。これらについて、ひとつずつ見ていきます。

イメージサークルについては、メインで使用している「PENTAX K-1」のファインダーで像を確認したかったため、という理由からです。
収差については特に考えず、極端な周辺光量落ちが無ければ構わないだろうと考えました。
焦点距離については、まず広角は設計やレンズの選定など色々と難しくなりそうなのでパスし、イメージサークルが確保しやすく収差も穏やかになりそうな望遠系にしようと考えました。
中望遠としたのは、仮に収差が大きくソフトになったとしても利用しやすく、また鏡筒設計まで考えたときに3Dプリンタでの出力サイズをあまり大きくしたくなかったためです。
F値については、世間一般でのいわゆる「大口径」を目指すと口径自体も大きくなってしまうため、「大口径」から一歩引いたあたりにすることにしました。
とはいえ、いずれも決定ではなく、なるべく柔軟に(下方)修正できるような目標値としました。

さて、問題はやはり「コスト」です。
予算が潤沢にあるならばともかく、あいにく個人製作、試作をするにもあまりお金は掛けられません。
もちろん机上でシミュレートするだけならいかようにもできるのですが、あくまで目的は「レンズの組み立てキットとして世に出す」ことと決めていました。
そこで、安価に入手可能な既製品の単レンズに絞ってエレメントを選定したところ、トリプレット構成(凸凹凸)ではなかなかちょうど良いものを探すのに難儀していました。
そこでレンズの入手性や鏡筒の光学系保持部の設計のしやすさを考慮して前後を完全対称とすることにし、凸凹凹凸のダブルガウス構成となったという経緯を辿っています。
絞りについては「最初のダブルガウス」では差し込み式のいわゆる「ウォーターハウス絞り」だったようです。
以前110-Qアダプター(リンク先:DMM.makeページ)を製作した際に顕微鏡用のアイリス(虹彩絞り)が入手可能なことが分かっていましたので、こちらを中央の対称面に置くことにしました。

対称構成のメリットとして、絞りの前で生じた一部の収差を絞りの後ろでキャンセルできることが挙げられます。
ただし、やはりレンズの選定には苦労し、すべての収差を抑えることについては妥協しています。

光学系から見た特徴としては、

  • 完全対称型のために歪曲収差、倍率色収差、コマ収差について優秀
  • 球面収差が全域に残存
  • 像面湾曲、非点収差の対処が足りず、周辺の解像性能が良くない
  • エレメントの口径に余裕があるため、周辺光量が確保されている

といったことが挙げられます。
球面収差の残存は全体の「ソフト」な描写に、そして非点収差は周辺部のいわゆる「ぐるぐるボケ」として写真に表れます。
周辺部の性能はあまりよろしくないため、撮影の際には被写体をなるべく中心に置くことが求められます。
絞ることである程度これらの収差は改善しますが、市販のレンズのような「カリカリ」の描写には及びません。
レンズ構成こそ4枚と少なめですが、侮るなかれ。
透過光量の低下は「面」で効いてきますので、合計8面。もしコーティングがなければ透過光量は1/3も減少してしまいます。
レンズエレメントはいずれもマルチコート品を選定したため、透過光量や逆光耐性もそれなりのものとなりました。